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2010/09/28

X線衛星すざくによる電波銀河NGC1275の変動解析

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2010b/html/S08a

NGC1275は、ペルセウス銀河団の中心に位置する電波銀河で、Perseus A または 3C84と呼ばれている。ブレーザーと違い、ジェットを斜めから見ている電波銀河を調べることは、謎が多い電波ジェットの構造を明らかにするためには重要である。電波では、2006年から光度が増加し、2007年には新しい電波源が出現した(Nagai et al.2010)。一方γ線では、EGRETでは検出されなかったが、2008年にフェルミ衛星がNGC1275の位置に明るいガンマ線放射を見つけ、EGRETの時代に比べて増光していることがわかった。このため,ガンマ線は銀河団というよりNGC1275から出ていると考えられる。また、多波長スペクトルはブレーザーと似ていて、シンクロトロン自己コンプトンモデルで表されると報告されている(Abdo et al.2009, Kataokaetal.2010)。過去の10keV以下のX線観測ではNGC1275の位置にハードな点源が見つかっているが、最近の電波やガンマ線との増光との相関が不明であったり、またX線放射も円盤由来かジェット由来か不明である。

そこで本研究では、X線での時間変動を調べ、またスペクトルも抽出するため、X 線衛星すざくによる解析を行った。データは、すざくの検出器XISの2006年2月から2010年2月までの半年ごとのデータを用いた。まず、高温ガスの放射が支配的な4-5keVとNGC1275の寄与が大きくなっている9-11keVでイメージを比較し、その半径分布の比からNGC1275のみの成分を求めた。そして、NGC1275の光度変化を調べた結果、まわりのペルセウス銀河団がほとんど変動していないことと比べ、 NGC1275には時間変動の兆候がみられた。本講演では、スペクトル情報も合わせて解析について報告し、X線の起源について議論を行う。

2009/09/16

「すざく」による Abell 1689 銀河団外縁部の高温ガスの研究

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○川原田円 (理研)、岡部信広(ASIAA)、中澤知洋(東大)、滝沢元和(山形大)、梅津敬一(ASIAA)
我々は「すざく」衛星を用いて、Abell 1689 銀河団の観測を行った。 4つのポインティング観測(38 ks づつ)を行うことによって、この 銀河団のビリアル半径 (15.8 arcmin = 2.9 Mpc) までカバーした。
注意深くバックグラウンドと点源を差し引いて解析した結果、高温ガス からのX線放射をビリアル半径まで検出することに成功した。ガス温度は、 中心部の $\sim $9 keV から 周辺部の $\sim$ 2 keV まで連続的に下降 していることがわかった。なかでも、銀河団の北東方向では、ビリアル半径 付近のX線表面輝度と温度が、中心から同じ距離にある他の領域に比べて 優位に高いことを発見した。表面輝度は他領域の$\sim$ 2 倍、温度は $\sim$ 5 keV である。
冷却関数の値は、5 keV では 2 keV よりも 50\% 程度大きい (重元素アバンダンス $\sim$ 0.1 を仮定) ので、5 keV 領域の 高温ガスの密度は、他の領域にくらべて、20\% ほど高い。温度と 密度から計算される 5 keV 領域のエントロピーは、他領域の $\sim$2 倍 になる。このことから、この領域で、構造形成時のショックや、 サブクラスターの衝突などの加熱プロセスが起こったと考えられる。 ところが、Sloan Digital Sky Survey (SDSS) のデータから、iバンド の高度分布図を書いても、この領域に有意な銀河集中は見られない。
弱い重力レンズと強い重力レンズをあわせた解析から、Abell~1689 の全質量分布は詳細に調べられている (Umetsu \& Broadhurst 2008)。 そこで、我々はすざく衛星のデータと重力レンズデータを組み合わせて 質量・温度・密度プロファイルの関係を調べた。高温ガスと暗黒物質の 静圧力平衡を仮定して、高温ガスの温度分布を解析的に求め (Komatsu \& Seljak 2001)、「すざく」で求めた温度分布データを比較したところ、 モデルとデータは、ビリアル半径付近を除いて、良く一致していることがわかった。 このことは、ビリアル半径では、高温ガスと暗黒物質の静水圧平衡が破れている 可能性を示唆している。

2009/09/14

「すざく」による電波銀河PKS2356-61のX線起源の特定

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○下田優弥、田代信、矢治裕一、瀬田裕美(埼玉大)、磯部直樹(京都大)、洪秀徴(日大)
近年の衛星によるX線観測で、電波ローブと銀河団ガスとの相互作用が発見され ている。これは、さまざまな説がある銀河団ガスの加熱問題を検討するうえでと ても重要であり、広く研究がなされている。これらの議論を進めるためには、天 体からのX線源を特定することが必要である。特に銀河団中の銀河からの放射 は、他の天体からの洩れ込が多いため、その特定が困難である。今回我々は、電 波銀河PKS2356-61の解析結果について報告する。この銀河のAGN は、電波観測で 活動性が高く、差し渡し6.3分角に及ぶ電波ローブを持つ。また、ジェットと同 程度の大きさしかない小規模の銀河群が、可視光観測で報告されている。小規模 の銀河群と比較して大きなジェットを持つので、ジェットによる銀河ガスの加熱 を調べる上で理想的な系である。また、「あすか」による観測で広がったX線源 が検出されたが、その起源については、ローブ由来か銀河群ガス由来なのか区別 できなかった(洪、2005年秋季年会ほか)。そこで我々は、より正確に議論を進 めるため、高感度の検出器を持つ「すざく」による観測を行った。その結果、 ローブを避けるように広がったX線源を確認した。そのスペクトルは熱的プラズ マで説明でき、得られた温度は銀河群の規模から推定されるものと一致した。

すざく衛星によるWHIM検出を目指したShapley superclusterの観測

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○三石郁之、山崎典子、竹井洋 (ISAS/JAXA)、大橋隆哉(首都大学東京)、佐藤浩介(金沢大学)、Massimiliano Galeazzi、Anjali Gupta(University of Miami)
バリオンの多くは大規模構造に付随し、現在では銀河団同士をつなぐフィラメント上に100万度以上の 高温プラズマ(WHIM: Warm-Hot Intergalactic Medium)として存在していることが予想されている (Cen $\&$ Ostriker, ApJ, 1999)。 しかしながらこれらのプラズマは未だ発見されておらず、ダークバリオンと呼ばれる。 これらは酸素輝線を多く放射していると考えられているため、 我々は全天でも大規模銀河団が最も多く集中するShapley supercluster (z$\sim$0.048)に着目し、 その中に広がると考えられるWHIMからの赤方偏移したO VII, O VIII輝線の直接的検出を目指した。 特にA 3556とA 3558間のフィラメント領域は、ROSAT衛星の観測から周囲の バックグランド領域より0.5-2 keVにて20 $\%$程度の超過成分の存在が確認されているため、 我々はこの領域に対しすざくによる観測を行った。 この領域は両銀河団からビリアル半径の0.9倍程度離れているため、 銀河団由来の放射は少なく、 もし放射が確認されればWHIMからの放射と考えられる。 フィラメント領域と併せ、赤経が1-4度程度離れた二ヶ所のオフセット観測を行い、 銀河系由来の放射の評価も行う。
フィラメント上、オフセット領域の全てで、O VII, O VIII輝線が検出されたが、 そのエネルギーに赤方偏移成分は見られなかった。 得られたフィラメント領域のO VII, O VIIIの放射強度は各々 $\sim$14, $\sim$4 photons s$^{-1}$ cm$^{-2}$ str$^{-1}$であり、 0.5-2 keVにおける超過成分が我々の銀河に由来する放射であることを 初めて突き止めることに成功した。 また、WHIM由来の放射強度およびそのプラズマ密度の上限についても議論する。

「すざく」衛星による衝突銀河団Abell 2142のオフセット観測

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○赤松 弘規、 石崎欣尚、大橋隆哉(首都大)、竹井洋、山崎典子、満田和久(ISAS/JAXA)、松下恭子(東京理科大)、佐藤浩介(金沢大)
Warm-Hot Intergalactic Medium (WHIM) は、近傍宇宙の見つかっていない「ミッシングバリオン」の大部分を占め、フィラメント状の宇宙の大規模構造を形成すると考えられている、宇宙の熱的進化の 鍵を握る物質である。WHIMは、銀河団周辺部に密度濃く存在していると考えられており、これまでに多くのWHIM の吸収線、輝線の観測が行われてきた(Kaastra et al. 2003, Finoguenov et al. 2003, Nicastro et al. 2005)。
現在、WHIMに対する最も厳しい酸素輝線の上限値は、「すざく」によるAbell 2218 ($z=0.175$)の観測で得られたものである(Takei et al. 2007)。 A2218 の観測では、厳しい上限値を与えたものの、赤方偏移したWHIMからのO$_{\rm V\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$輝線が銀河内のO$_{\rm V\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$輝線に重なっており、O$_{\rm V\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$輝線は赤方偏移した結果、検出器システムの酸素吸収端にかかってしまっていた。 そこで我々は、酸素輝線の赤方偏移が最適となるように選んだ、 衝突銀河団 Abell 2142 ($z=0.0909$) の衝突軸に沿った方向を「すざく」衛星で ビリアル半径(2.7 $Mpc$)を超えて2ビリアル半径までを3ポインティング観測した。 観測は、2007年8-9月に行った。 「すざく」XISの低エネルギー側での高い感度によって、 ビリアル半径を超える領域($r = 2.7 \sim 4.05 Mpc$)で、約 1 keV の熱的放射成分の 兆候を見出した。 さらに、WHIMからの赤方偏移した酸素輝線の上限値を求め、O$_{\rm V\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$輝線(521 eV)ではA2218 と同程度、 O$_{\rm V\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$輝線(598 eV)で$I <$ 2$\times 10^{-7}$photons /cm$^{2}$/s/arcmin$^{2}$と約2倍厳しい制限を定めた。 本講演では、銀河団周辺部における銀河団放射とWHIMからの赤方偏移した酸素輝線の上限値について、最新の解析結果に基づき報告する。

すざく衛星による近傍の明るい銀河団 Abell 3627の観測

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○西野 翔、深沢 泰司、林 克洋 (広島大学)
Abell 3627 (Norma cluster)は、X線バンドでは全天で6番目に明るい、近傍 (Z = 0.016)の銀河団であり、近傍宇宙の巨大質量源であるグレート・アトラ クターの質量中心付近に位置している。過去に行われたROSATによる観測で は、中心から南東方向にelongateした構造をしていることが分かっており、重力 的にリラックスしていない衝突型銀河団の特徴を示している。また、ASCAによる 観測では、中心領域と南東領域では2 keV程度の温度の違いがあり、南東領域で 現在、銀河団衝突が起きている可能性が示唆されている。もし現在、銀河団衝突 が起きていれば、衝突合体に伴うプラズマ加熱や加速粒子からの非熱的放射が見つか る可能性がある。A3627は、銀河団進化の観点から、このように興味深い天体であ るが、銀河面付近 (銀緯 -7 度)に位置するため、他の明るい銀河団 に比べて、X線による観測は比較的少ない。
そこで我々は、2009年2月/3月にすざく衛星を用いて、A3627の中心部 (50 ks)/南 東部 (50 ks)の2点のポインティング観測を行った。X線CCD検出器 (XIS: 0.5 - 12 keV), 硬X線検出器 (HXD-PIN: 10 - 50 keV)で得られたスペクトルはいずれも、 5-7 keV程度の熱的放射でよく説明できるものであり、非熱的放射の兆候や超高 温ガスからの放射は確認できなかった。 次に銀河団の物理量の空間分布から、銀河団衝突の証拠をつかむべく、より 詳細なXISのデータ解析を行った。輝度マップや温度マップ上で銀河団衝突に伴 う明らかなジャンプ構造は見つからなかったものの、中心付近の半径10分くらい の領域ではおおよそ7 keVで等温であり、南東方向に向かうにつれて4.5 keV までゆるやかに低下するという、特徴的な温度構造が確認された。 本講演では、これらの解析結果から、現在の銀河団衝突の可能性について 議論する。

すざく衛星によるAbell496銀河団の重元素分布の決定

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○川西 恭平、松下 恭子(東理大)、 佐藤 浩介(金沢大)
今回私達は、すざく衛星からAbell496銀河団の観測から、スペクトルをフィッティングすることでAbell496銀河団の高温ガス ICM(Intra Cluster Medium)中の重元素の分布を求めた。特に、マグネシウムはII型超新星爆発からのみ合成されるので、マグネシウムの重元素量を求め、鉄と比較するこ とでIa型とII型の寄与を調べることができる。XMM-Newton衛星でもAbell496銀河団の14'以内の酸素、硅素、鉄のアバンダンスが報告 されているが、酸素のアバンダンスの誤差は大きく、マグネシウムは輝線付近において検出器由来の強い輝線が発生していて、マグネシウムの輝線が隠されてし まい検出が困難である。
すざく衛星は、検出器由来のバックグラウンドが低く、エネルギー分解能が優れているため銀河団の観測に適している。今 回、中心から半径10'(約0.2$r_{180}$)以内で円環状の領域をとり、マグネシウム、鉄、硫黄、硅素の重元素分布を求めた。鉄、硫黄、硅素の 重元素量は中心領域から離れるほど減少していき、マグネシウムは中心から外側にかけて一定となっていることが見られた。この結果から、主にIa型から合成 される鉄とII型から合成されるマグネシウムの重元素量を比較すると、AbeII496銀河団中のII型の寄与は、中心から離れていくほど大きくなってこ とが見られた。また、鉄の質量に対する単位銀河あたりの光度(質量)の量(IMLR)の半径分布を求めた。IMLRは、中心から 0.1$r_{180}$付近まで増加傾向で、それよりも外側においては、わずかに増加の傾向が見られた。この結果から、鉄は中心付近で光度に比べて不足 しており、また外側に広がっていると言える。

「すざく」によるTriangulum-Australis銀河団の観測

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○中島健太、中澤知洋(東大理)、奥山翔(東大理)、山田真也(東大理)牧島一夫(東大理/理研)
銀河団の重力ポテンシャルにとらえられている高温ガスの温度は、 典型的に6 keV、最も高い場合で12 keV程度と考えられてきた。 しかし「すざく」は、X線CCDカメラに加え硬X線検出器を用いる ことにより、衝突銀河団A3667から温度〜6 keVの主成分に加えて、 〜20 keVの超高温成分と思われる信号を得た(Nakazawa et al. 2009)。 他にも「すざく」はRXJ1347-1145から、温度 33 keV以上の成分 の兆候を得ている (Ota et al. 2008)。
この予期せぬ超高温成分は、銀河団の衝突に関連していると想像されるが、 測定された高い温度を説明するためには、非常に効率の良い加熱機構、 超高温プラズマを強く閉じ込め機構などが必要で、銀河団の衝突過程に重要 な手掛かりとなると期待される。そこで、この超高温成分の存在をより確か なものとし、その起源、加熱機構、意義などを明らかにしていくため、 サンプル数を増やすことが急務である。
Triangulum-Australis銀河団はこれまで「あすか」およびROSATによって 観測され、平均温度が$9.5\pm 0.7$ keVと報告されている (Markevitch et al. 1998)。この結果は、エネルギー帯域 0.5--10 keVを利用して得られた ものである。これに対し今回、我々はより広いエネルギー帯域を持つ 「すざく」を用い、Triangulum Australisを2008年10月11日9時から 13日15時まで、77 ks観測した。「すざく」硬X線検出器では 10-60 keV の範囲で、$0.204\pm 0.003 $ counts/sec の信号が検出された。これと 「すざく」X線CCDカメラのデータとをあわせ、0.8-60 keVの広帯域で スペクトルを解析すると、平均温度9.3 keV、abundance 0.27の放射で データが良く再現できることがわかった。超高温成分に関しては、 探査を続けている。

すざく衛星による衝突銀河団 Abell 85 の観測: 温度マップと subcluster の衝突方向

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○田中伸広 (国立天文台)、古澤彰浩 (名古屋大)、三好蕃(京都産業大)、田村隆幸 (宇宙航空研究開発機構)、高田唯史 (国立天文台)
衝突銀河団の研究は、銀河団進化の過程や Intra-culster Medium (ICM) の 性質を知るために重要であるだけでなく、宇宙の構造形成史やメンバー銀河の進化に ついての研究などにも影響を与える分野である。 X 線よる銀河団観測は、銀河団同士の衝突による ICM の温度上昇を観測するこ とができる。 また衝撃波面前後の ICM の密度や圧力の変化も得られる。 これらの物理量から衝突の方向や規模、衝撃波の速度などの銀河団衝突に関する 様々な情報を引き出すことができる。 すざく衛星は広い有効面積と低バックグラウンド(特に高エネルギー側)という特 徴をもっている。 これらの特性は、薄く拡がった成分の高温領域を精度よく検出することができる ため、 衝突銀河団の観測に最適である。
我々は、すざく衛星で観測した Abell 85 (以後 A85) の X 線観測データを用いて、 Hardness ratio マップとスペクトル解析から得た温度マップを作成した。 それらから、A85 の南方に位置する subcluster の北側 (impact region) と東 側 (hot region) に 高温領域 ($\sim$ 8 keV) が存在することが判明した。 高温領域のピークは hot region に位置しており、そこから南北方向に弓状に広 がっているように見える。 このように広がった高温領域は、先行研究 (Kempner et al. 2002, Chandra; Durret et al. 2005, XMM-Newton) では S/N が低くいため検出されていない。
我々の得た温度分布を見ると、南西方向から衝突したと考えるのが自然であるこ とが判明した。 本講演では A85 で起きている衝突現象について X 線および可視光の観測データ を用いて、詳細な議論を行う予定である。

「すざく」衛星によるペルセウス銀河団のX線分光と重元素組成比の測定

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○田村隆幸、「すざく」ペルセウスSWGチーム
「すざく」衛星によるペルセウス銀河団のX線分光観測について報告する。
ペルセウスは全天で最もX線で明るい銀河団である。また、ペルセウスは、衛星 のXIS検出器(CCD)の較正天体であり毎年2回の観測を行っている。これらの観測 データをできるだけ多く足す合すことによって、もっとも統計の良いX線スペク トルを取得することができた。これによって精密な重元素量の測定を行った。 Ne, Mg, Si, S, Ar, Ca, Fe, Niの組成比とそれらの空間分布が明らかになった。
銀河団ガスの中には、メンバー銀河中に残されているものと同程度の重元素が含 まれている。したがって、その組成比は、宇宙全体での重元素比を考える上で、 もっとも重要なものの一つである。また組成比は、メンバー銀河の中での星の生 成、超新星爆発による重元素の生成、およびそれらを銀河間空間に撒き散らす歴 史を物語るプローブである。今回の結果をこれまでの測定結果と比較する。ま た、化学進化について議論を行う。

X線と弱重力レンズによるZwCl0823.3+0425銀河団周辺の大規模構造フィラメントの解析

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○渡邉瑛里(山形大)、中澤知洋(東京大)、浜名崇、宮崎聡(国立天文台)、岡部信広(東北大)、滝沢元和(山形大)、川原田円(理研)
ZwCl0823.3+0425銀河団の周辺には、この銀河団を中心に、主に北、北東、南 東、北西の4方向に質量分布が広がっており、いくつかのダークマターハローが Local Cluster Substructure Survey (LoCuSS)で確認されている。 これらのハローは大規模構造フィラメントを構成しており、やがて 宇宙の構造進化において、大きな銀河団を構成する基本要素であると考えられ る。また、宇宙の中で広大な体積を占めている とも考えられ、銀河団の重要な情報を含んでいる可能性も高い。 これら同一フィラメント中の複数のハローをweak lens解析とX線解析を組み合 わせて統計的に調べることで、質量やバリオン比、重元素アバンダンスなどと の相関関係を得ることができれば、やがて構造進化において ”銀河団がどのように進化していくのか”という統一的な理解に迫ることがで きる。 \\今回我々がすざく衛星でZwCl0823.3+0425(z=0.22)周辺の領域の観測を 行った結果、ZwCl0823.3+0425銀河団とその北側のハローに付随する明確 なX線放射が検出され、北東にある弱いweak lens信号のハロー領域からは、か すかなX線信号が検出さが検出された。一方で北東より強いweak lens信号を示す南東、北西の小さなハロー領域では、X線の信号がほとんど検 出されなかった。今回は前回の発表時よりもbackground modelを詳細に決定し、 X線解析を行った。 その結果、北側の天体はz=0.47に存在する6kev程度の銀河団であることが示唆 され、北東の天体は北側の銀河団に付随するz=0.47に存在する3keV程度の銀河団であ ることが示唆された。また北西の領域からは、bakgroundよりもわずかに高いX線 信号があることが分かった。 本講演では、すざく衛星のX線解析について発表した後、 すばる観測結果と比較しながら、これらダークマターハローの性質を議論する。

2009/03/26

X線と弱重力レンズによるZwCl0823.3+4250銀河団周辺の大規模構造フィラメントの解析

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○渡邉瑛里(山形大)、中澤知洋(東京大)、浜名崇、宮崎聡(国立天文台)、岡部信広(東北大)、滝沢元和(山形大)、川原田円(理研)
ZwCl0823.3+0425銀河団の周辺には、すばるweak lens surveyにより大小7つの ダークマターハローが確認さている。これらのハローは大規模構造フィラメントを 構成していると考えられ、大きさは比較的小さい。やがて宇宙の構造進化において、大 きな銀河団を構成する基本要素であるとも考えられる。 これら同一フィラメント中の複数のハローは、weak lens解析と X線観測を組み合わせることにより統計的に調べることが 可能である。その結果から質量やバリオン比、重元素アバンダンス、 可視光での銀河分布などとの相関を得ることができれば、構造形成に おいて'銀河団がどのように進化していくのか'という統一的な理解に迫ること ができる。
そこで今回我々は、すざく衛星でZwCl0823.3+0425(z=0.29)周辺の領域の観測 を行った。その結果、ZwCl0823.3+0425とその北側のハローに付随する明確な X線放射が検出された。X線スペクトルの解析から、 この北側の天体はz=0.47に存在する温度 6keV程度の銀河団であることが示唆され、可視光での銀河の赤方偏移 にも、その距離に別のピークがあることが分かった。 このことから、北側の領域は2つの大規模構造が重なっている事が明確になっ た。また、この銀河団の北東にある弱いweak lens信号のハロー領域から、感度限 界ギリギリのかすかなX線信号が検出された。 一方で、より強いweak lens信号を示す東、西の2つの小さなハロー領域では、 X線の信号が非常に弱い。
一見してみられるようなX線強度の個性は、バリオンの集中度の違いやバリオ ン比そのものの違いを示している可能性がある。 本講演では、すざく衛星による詳細なデータ解析について発表した後、すばる 観測結果と比較しながら、これらのダークマターハローの性質を議論す

すざくによるEGRET未同定天体の観測 : 大規模構造形成に伴う非熱的放射の探査

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○真喜屋龍(京都大)、戸谷友則、中澤知洋(東京大)

コンプトン衛星に搭載されたガンマ線観測装置EGRETによって観測された天体の うち、半分以上がいまだ未同定であり宇宙物理学上の大きな問題となっている。 今回我々はその内の一つ3EGJ1234-1318のすざくによる観測を行った。 \par この天体の周辺領域には多数の銀河・銀河団が密集してフィラメント構造を形成 しており、現在も活発に大規模構造形成が行われていることが示唆されている。 標準的な構造形成理論によれば、構造形成はまずCold Dark Matterが自己重力で 集中し、そこにバリオンガスが落ち込んで衝撃波加熱され、それが冷えて星や銀 河を作る、というシナリオで起こる。この衝撃波で加熱された電子とCMB光子に よる逆コンプトン散乱で、硬Xからガンマ線領域に渡る拡がった非熱的放射が期 待される。我々は3EGJ1234-1318の起源がこの非熱的放射であるという仮説を立 て、その検証のためにすざくによる観測を行った。 \par 今回我々は上記のフィラメントに沿ってすざくで4視野の観測を行った。いずれ の視野においてもすざくHXDでは有意なシグナルが検出されなかったため、バッ クグラウンド揺らぎの見積りからflux upper-limitのみ求めた。これは4視野と もに、EGRETの結果から期待される値と同程度であった。 すざくXISでは、過去にX線での観測例の無い二つのAbell銀河団A1555とA1558の 検出に成功した。これらについてスペクトル解析を行ったが、非熱的成分は検出 できなかった。 \par 以上の観測結果を踏まえ、上記の仮説への示唆を議論する。

すざく衛星によるAbell 2319銀河団の広帯域スペクトル解析

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T07a.html
○菅原 知佳 (山形大)、滝沢 元和 (山形大)、中澤 知洋 (東京大)、奥山 翔(東京大)
Abell 2319銀河団は、z=0.0557の近傍の衝突銀河団であり、非一様な温度分布や コールドフロントが見つかっている。可視光観測から、視線方向に 二つのグループが重なっており、その速度差はおよそ3000km/s に達すると示唆されている。さらに、銀河団全体を覆う電波ハローが検出されて おり、610MHzで1Jyであることがわかっている。この放射は、銀 河団中に広がる、エネルギーがGeV程度の電子のシンクロトロン放射であると考え られる。同じGeV電子が宇宙マイクロ波背景放射の光子を逆コンプトン散乱で 放射する硬X線を検出できれば、磁場強度の決定も可能となる。
今回、我々はすざく衛星に搭載されているX線CCD検出器(XIS)と硬X線検出器(HXD) で、Abell 2319銀河団の広帯域スペクトル解析(0.5-40keV)を行った。2温度プ ラズマモ デルでフィットしたところ、15keVを越える超高温成分の存在が示唆された。ま た、 NXBやCXBの系統誤差を考慮すると、電波放射から予想される、 photon index$\sim 1.9$の非熱的放射は検出できなかった。熱的成分として 単純な1温度プラ ズマを仮定した場合、10-40keVで積分し た非熱的放射のフラックスの上限値は、$\sim 2\times 10^{-11}$ erg s$^{-1}$ cm$^{-2}$(90%信頼度)と求まった。電波放射と比較すると、磁場強度の下限値 は、$\sim 0.2\mu$G となる。この結果は、$Beppo$-SAXによって求まっている$\sim 0.04\mu$Gよりも厳しい制限を与える。それ に加え、$Beppo$-SAX PDSよりもすざく衛星のHXDは絞られた視野を持ち、電波放 射はすざく衛星のHXDの視野に収まることから 、より信頼できる結果といえる。

すざく衛星によるFornax銀河団のオフセット観測

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T05a.html
○小宮山 円、松下 恭子(東理大)、佐藤 浩介(金沢大)、大橋 隆哉(首都大)、山崎 典子、竹井 洋(JAXA)、中澤 知洋(東大)
今回我々は、すざく衛星によるFornax銀河団のオフセット観測から 求めた銀河団ガス中の重元素分布について報告する。 Fornax銀河団は温度 1.3--1.5~keV のICMをもつ 我々の近傍の小銀河団である。 Chandra衛星などによる先行研究から、ICMの分布が非対称であり、 cD銀河が銀河団ポテンシャルの中心に いないことがわかっている。
高温銀河団では鉄の質量と銀河光度の比は一定であるのに対し、銀河群 や小規模銀河団では小さくなることがわかっている。 すざく SWG時間におけるFornax銀河団の中心部の観測では、 北方 0.13~$r_{180}$ 以内の鉄と酸素の質量--光度比が求まり、 2--3~keV の銀河団での値の 1/10 程度であった。 銀河群や小規模銀河団のガスは高温銀河団より 広がっているので、 重元素もともに銀河団の外側へと広がっている可能性がある。
銀河団ガスの重元素の起源をIa型超新星とII型超新星に分離するためには、 両方から合成される鉄・硅素の比だけでなく、 II型超新星のみから合成される酸素・マグネシウムの量が重要となる。 銀河団中心部ではcD銀河からの寄与が大きいことを考えると、 銀河団成分を正確に評価するには 0.1~$r_{180}$ より外側の重元素分布 の決定が不可欠である。
今回は、Fornax銀河団のcD銀河 NGC 1399 より約 100--200~kpc 離れたオフセット領域3ヶ所の観測を用いて $\sim$~0.1--0.2~$r_{180}$ の領域の重元素量を求めた。 北側では 0.06--0.2~$r_{180}$ の範囲で 中心部の観測結果と矛盾が無く、 酸素・マグネシウム・硅素はほぼ一定、 鉄は少し減少していた。 南側 0.1~$r_{180}$ 周辺の領域では、 酸素・マグネシウム・硅素は北側と同程度であったが、 鉄のアバンダンスは北側よりも低くなった。 これは、 Ia型超新星爆発の寄与が北と南で違っていることを 示唆している。

「すざく」で観測されたFossil group NGC1550の重元素分布

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○佐藤浩介(金沢大)、松下恭子(東理大)、川原田円(理研)、中澤知洋(東大)、山崎典子(ISAS/JAXA)、石崎欣尚、大橋隆哉(首都大)
我々は2008年春季年会で報告したように、「すざく」を用いた銀河群・ 銀河団の観測から、銀河間ガス(ICM)に含まれる重元素量と構成銀河 の赤外光度の比が重元素拡散のよい指標となることを示唆した。 しかし銀河群・銀河団では構成銀河の数も多く、中心銀河の影響や 過去と現在の拡散の違いをみることは難しい。
今回我々が「すざく」で観測を行ったNGC~1550はFossil groupの中心に あるS0銀河である。Fossil groupとは、銀河群並の質量を持っている ものの中心にX線で明るい銀河が存在し、それ以外のメンバー銀河がほとんど 存在しない天体である。よって、中心領域($\sim0.1~r_{\rm 180}$)では 中心銀河からの重元素放出の影響を受けているものの、 それより外側の領域では、過去の重元素拡散の様子をそのまま残して いると考えられる。
{\it XMM}衛星の観測から、NGC~1550はクーリングコアを持ち、 アバンダンスは中心部で$\sim$1 solarから$\sim0.1~r_{\rm 180}$で $\sim0.3$ solarになることが報告されている(Kawaharada 2006)。 今回の「すざく」観測の結果も{\it XMM}での観測とほぼ一致し、 中心領域($r<\sim0.05~r_{\rm 180}$)は2成分の熱的放射、 それより外側では1成分の熱的放射に我々の銀河系から放射と 宇宙背景X線放射の重ね合わせで、観測されたスペクトルはよく再現できた。 また、$\sim0.2~r_{\rm 180}$までの温度と各重元素の半径分布を決定できた。 本講演では、今回の観測結果とこれまでの銀河群・ 銀河団との比較から、ICM中の重元素拡散プロセスについて議論を行う。

「すざく」による MS 1512.4+3647 銀河団プラズマの重元素組成の研究 

天文学会 2009 A
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○川原田円 (理研)、北口貴雄、中澤知洋 (東大)、牧島一夫 (東大/理研)山崎典子 (ISAS)、太田直美 (ISAS/MPE)、深沢泰司 (広大)、松下恭子 (東理大)、佐藤浩介 (金沢大)、大橋隆哉 (首都大)
銀河団プラズマ(ICM)中の重元素は、銀河中の星の内部や超新星爆発 によって出来たものが、広大は銀河間空間に輸送されたものである。 重元素のうち、鉄族は主にIa型の超新星爆発 (SN-Ia) によって作られ、 $\alpha$元素は、II型超新星爆発 (SN-II) の寄与が大きいと考えられ ている。
近年の {\it XMM-Newton} 衛星と {\it Chandra} 衛星による遠方銀河団 の観測から、ICM中の鉄アバンダンスが過去から現在に向けて増加して いる兆候が見えてきた。しかし、これらの衛星では、低エネルギー側で スペクトル輝線に対する感度が劣化することと、検出器のバックグラウンド が高いために、酸素、マグネシウムなどの測定が困難であり、$\alpha$元素 の進化については全くわかっていない。そこで我々は今回、遠方銀河団の ICM中の$\alpha$元素量を世界ではじめて決定すべく、「すざく」衛星で $z=0.372$ の銀河団 MS 1512.4+3647 の観測を行なった。
X線の放射中心から2分角 (612 kpc) 以内からスペクトルは、 3.5分角 (1072 kpc) より外側をバックグラウンドとして解析 を行なったところ、$3.5 \pm 0.1$ keV の 1温度プラズマで良く再現できた。 このときの重元素アバンダンスは、$\alpha$元素が $Z_{\rm O} = 0.32^{+0.46}_{-0.32}$ solar、 $Z_{\rm Mg} = 0.41^{+0.46}_{-0.32}$ solar、 $Z_{\rm Si} = 0.71^{+0.20}_{-0.19}$ solar、 $Z_{\rm S} = 0.38^{+0.21}_{-0.20}$ solar、 鉄が $Z_{\rm Fe} = 0.52^{+0.05}_{-0.05}$ solar となった。これらを近傍の銀河団の平均値と比べると、$\alpha$元素は 誤差の範囲内で一致するが、鉄は3割ほど有意に低い。1天体のみの結果 ではあるが、このことは、ICM中における鉄と$\alpha$元素組成の進化が 異なる可能性を示唆する。

2008/03/24

「すざく」衛星による Abell 2199 銀河団の観測II

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○川原田 円 (理研)、北口 貴雄、中澤 知洋 (東大)、牧島 一夫 (東大、理研)深沢 泰司 (広島大学)
2007年秋の年会における講演(T03a)に続いて、「すざく」衛星の Abell 2199 銀河団の解析結果について講演を行う。前回は、W23系のみのPIN (32/64個)を使用して解析した結果、有意な非熱的信号は見られず、 その上限値は、Center領域で、BeppoSAX衛星の2.3倍厳しい値となる ことがわかった。今回は、フレアしたPINを含むユニット(PIN4個)を除く、 60個のPINを用いた解析を行うことで、統計を改善した。その結果得られた、 非熱的放射に対するより厳しい上限について報告する。
Abell 2199 は非熱的放射のみならず、soft excessと呼ばれる 1 keV 以下のエネルギー領域における熱的成分からの超過成分が示唆 されてきた (e.g. Kaastra et al. 2002)。 soft excess はほか にもいくつかの天体でも示唆されてきたものの、それが本当に存在するのか、 またあるとしたら熱的なのか非熱的なのか、まったくわかっていない。
「すざく」の時代になって、唯一 Sersic 159-03で soft excess の存在が確かめられている (Werner et al. 2007)。そこで今回我々は、 Abell 2199にsoft excess が存在するかどうか調べるためにXISの スペクトルを解析し、予備的な結果ながら、有意なsoft excessが 見られないことがわかった。今回はこのAbell 2199 の soft excess の上限と、これまでの衛星の結果との整合性について議論する。

すざく衛星による銀河団A2256の観測

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日本天文学会2008年春季年会
T09a
すざく衛星による銀河団A2256の観測
長井雅章、○林田 清、田和憲明 (大阪大理)
銀河団の進化、成長に 銀河団のマージングがはたす役割は大きい。 銀河団A2256は、1)X線表面輝度に二つのピークをもち、2)構成銀河の 速度分布が二つ(あるいは三つ)の成分で構成され、3)X線観測で 得られるガス温度の分布が非一様で、特にコールドフロントと 呼ばれる不連続な構造をもつ、という特徴から、近傍の代表的な マージング銀河団として知られている。
我々は、2006年11月、すざく衛星を用いてこのA2256銀河団を観測した。 X線CCDカメラXISによって取得したメインクラスターとサブクラスター、 それぞれのX線スペクトルから、ガス温度が7.5keV, 5.7keVと異なる ことを確認した。さらに、それぞれの高温ガスの赤方偏移を X線スペクトルフィットから求め、メインクラスターの後退速度 がサブクラスターのそれより1590+700-750km/s (誤差は90\%信頼 限界の統計誤差)だけ大きいことを、はじめて明らかにした。 この値は、可視光で測定されている構成銀河の後退速度と矛盾がなく、 この銀河団において、メイン、サブそれぞれのクラスターが いままさに衝突をはじめた、マージングの初期段階にあることを 示している。
A2256は、Beppo-SAX, RXTE衛星による観測 で硬X線非熱的放射が検出された銀河団でもあり、 電波レリックと呼ばれるひろがった電波源の存在とあわせて、 非熱的過程が銀河団規模で起こっていることが示唆されている。 すざく衛星の観測によって得られた非熱的放射に関する制限に ついてもあわせて報告する。

「すざく」による高温銀河団ガス運動の探査

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日本天文学会2008年春季年会
T10a
「すざく」による高温銀河団ガス運動の探査
○金丸武弘 (東京理科大学)、川原田円(理化学研究所)、玉川徹(理化学研究所)、早藤麻美(東京理科大学)、牧島一夫(東京大学)、他「すざく」チーム

銀河団は、小さな銀河団同士の衝突合体を通じて現在のような姿に成長してきたと考られている。銀河団同士の衝突に伴って高温ガスがバルク運動を持つとする と、輝線スペクトルにドップラーシフトが生じると考えられる。そこで輝線のエネルギーを決定することで、衝突合体の様子に直接的な手がかりが得られると期 待される。今回は「すざく」が観測した、ガス温度分布やX線イメージの形状からリラックス状態と考えられるPerseus銀河団中心領域と Abell1060と、衝突合体中と思われるAbell 3376、Abell 3667を対象にしてX線スペクトル解析を行いガスバルク運動を調べた。「すざく」により現在まで挙げられてきた成果を上記の天体解析結果に加え、銀河団 の高温ガスバルク運動について報告する。
鉄輝線の位置依存性を調べるために、XIS検出器の視野をおよそ2.2'×2.2'、4.5'×4.5' の正方領域に分け、各領域についてX線スペクトルを抽出しモデルフィットを行った。静止系でのエネルギーと比較し各領域での視線速度を計算しバルク運動を 調べた。結果リラックス状態と考えられるPerseus銀河団中心領域とAbell 1060のガスバルク運動は音速を越えるような状態は確認出来なかった。衝突合体中と考えられるAbell 3376、Abell 3667のガスバルク運動は音速程度の速度差を生じていた。この事は銀河団ガスは衝突合体に際して音速を越えるガスバルク運動を生じ、次第にリラックスし ていくという銀河団 の衝突合体仮説が正しかった事を意味しているのかもしれない。