2009/09/16

「すざく」による Abell 1689 銀河団外縁部の高温ガスの研究

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009b/html/T06a

○川原田円 (理研)、岡部信広(ASIAA)、中澤知洋(東大)、滝沢元和(山形大)、梅津敬一(ASIAA)
我々は「すざく」衛星を用いて、Abell 1689 銀河団の観測を行った。 4つのポインティング観測(38 ks づつ)を行うことによって、この 銀河団のビリアル半径 (15.8 arcmin = 2.9 Mpc) までカバーした。
注意深くバックグラウンドと点源を差し引いて解析した結果、高温ガス からのX線放射をビリアル半径まで検出することに成功した。ガス温度は、 中心部の $\sim $9 keV から 周辺部の $\sim$ 2 keV まで連続的に下降 していることがわかった。なかでも、銀河団の北東方向では、ビリアル半径 付近のX線表面輝度と温度が、中心から同じ距離にある他の領域に比べて 優位に高いことを発見した。表面輝度は他領域の$\sim$ 2 倍、温度は $\sim$ 5 keV である。
冷却関数の値は、5 keV では 2 keV よりも 50\% 程度大きい (重元素アバンダンス $\sim$ 0.1 を仮定) ので、5 keV 領域の 高温ガスの密度は、他の領域にくらべて、20\% ほど高い。温度と 密度から計算される 5 keV 領域のエントロピーは、他領域の $\sim$2 倍 になる。このことから、この領域で、構造形成時のショックや、 サブクラスターの衝突などの加熱プロセスが起こったと考えられる。 ところが、Sloan Digital Sky Survey (SDSS) のデータから、iバンド の高度分布図を書いても、この領域に有意な銀河集中は見られない。
弱い重力レンズと強い重力レンズをあわせた解析から、Abell~1689 の全質量分布は詳細に調べられている (Umetsu \& Broadhurst 2008)。 そこで、我々はすざく衛星のデータと重力レンズデータを組み合わせて 質量・温度・密度プロファイルの関係を調べた。高温ガスと暗黒物質の 静圧力平衡を仮定して、高温ガスの温度分布を解析的に求め (Komatsu \& Seljak 2001)、「すざく」で求めた温度分布データを比較したところ、 モデルとデータは、ビリアル半径付近を除いて、良く一致していることがわかった。 このことは、ビリアル半径では、高温ガスと暗黒物質の静水圧平衡が破れている 可能性を示唆している。

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