2009/03/26

X線と弱重力レンズによるZwCl0823.3+4250銀河団周辺の大規模構造フィラメントの解析

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○渡邉瑛里(山形大)、中澤知洋(東京大)、浜名崇、宮崎聡(国立天文台)、岡部信広(東北大)、滝沢元和(山形大)、川原田円(理研)
ZwCl0823.3+0425銀河団の周辺には、すばるweak lens surveyにより大小7つの ダークマターハローが確認さている。これらのハローは大規模構造フィラメントを 構成していると考えられ、大きさは比較的小さい。やがて宇宙の構造進化において、大 きな銀河団を構成する基本要素であるとも考えられる。 これら同一フィラメント中の複数のハローは、weak lens解析と X線観測を組み合わせることにより統計的に調べることが 可能である。その結果から質量やバリオン比、重元素アバンダンス、 可視光での銀河分布などとの相関を得ることができれば、構造形成に おいて'銀河団がどのように進化していくのか'という統一的な理解に迫ること ができる。
そこで今回我々は、すざく衛星でZwCl0823.3+0425(z=0.29)周辺の領域の観測 を行った。その結果、ZwCl0823.3+0425とその北側のハローに付随する明確な X線放射が検出された。X線スペクトルの解析から、 この北側の天体はz=0.47に存在する温度 6keV程度の銀河団であることが示唆され、可視光での銀河の赤方偏移 にも、その距離に別のピークがあることが分かった。 このことから、北側の領域は2つの大規模構造が重なっている事が明確になっ た。また、この銀河団の北東にある弱いweak lens信号のハロー領域から、感度限 界ギリギリのかすかなX線信号が検出された。 一方で、より強いweak lens信号を示す東、西の2つの小さなハロー領域では、 X線の信号が非常に弱い。
一見してみられるようなX線強度の個性は、バリオンの集中度の違いやバリオ ン比そのものの違いを示している可能性がある。 本講演では、すざく衛星による詳細なデータ解析について発表した後、すばる 観測結果と比較しながら、これらのダークマターハローの性質を議論す

すざくによるEGRET未同定天体の観測 : 大規模構造形成に伴う非熱的放射の探査

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○真喜屋龍(京都大)、戸谷友則、中澤知洋(東京大)

コンプトン衛星に搭載されたガンマ線観測装置EGRETによって観測された天体の うち、半分以上がいまだ未同定であり宇宙物理学上の大きな問題となっている。 今回我々はその内の一つ3EGJ1234-1318のすざくによる観測を行った。 \par この天体の周辺領域には多数の銀河・銀河団が密集してフィラメント構造を形成 しており、現在も活発に大規模構造形成が行われていることが示唆されている。 標準的な構造形成理論によれば、構造形成はまずCold Dark Matterが自己重力で 集中し、そこにバリオンガスが落ち込んで衝撃波加熱され、それが冷えて星や銀 河を作る、というシナリオで起こる。この衝撃波で加熱された電子とCMB光子に よる逆コンプトン散乱で、硬Xからガンマ線領域に渡る拡がった非熱的放射が期 待される。我々は3EGJ1234-1318の起源がこの非熱的放射であるという仮説を立 て、その検証のためにすざくによる観測を行った。 \par 今回我々は上記のフィラメントに沿ってすざくで4視野の観測を行った。いずれ の視野においてもすざくHXDでは有意なシグナルが検出されなかったため、バッ クグラウンド揺らぎの見積りからflux upper-limitのみ求めた。これは4視野と もに、EGRETの結果から期待される値と同程度であった。 すざくXISでは、過去にX線での観測例の無い二つのAbell銀河団A1555とA1558の 検出に成功した。これらについてスペクトル解析を行ったが、非熱的成分は検出 できなかった。 \par 以上の観測結果を踏まえ、上記の仮説への示唆を議論する。

すざく衛星によるAbell 2319銀河団の広帯域スペクトル解析

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○菅原 知佳 (山形大)、滝沢 元和 (山形大)、中澤 知洋 (東京大)、奥山 翔(東京大)
Abell 2319銀河団は、z=0.0557の近傍の衝突銀河団であり、非一様な温度分布や コールドフロントが見つかっている。可視光観測から、視線方向に 二つのグループが重なっており、その速度差はおよそ3000km/s に達すると示唆されている。さらに、銀河団全体を覆う電波ハローが検出されて おり、610MHzで1Jyであることがわかっている。この放射は、銀 河団中に広がる、エネルギーがGeV程度の電子のシンクロトロン放射であると考え られる。同じGeV電子が宇宙マイクロ波背景放射の光子を逆コンプトン散乱で 放射する硬X線を検出できれば、磁場強度の決定も可能となる。
今回、我々はすざく衛星に搭載されているX線CCD検出器(XIS)と硬X線検出器(HXD) で、Abell 2319銀河団の広帯域スペクトル解析(0.5-40keV)を行った。2温度プ ラズマモ デルでフィットしたところ、15keVを越える超高温成分の存在が示唆された。ま た、 NXBやCXBの系統誤差を考慮すると、電波放射から予想される、 photon index$\sim 1.9$の非熱的放射は検出できなかった。熱的成分として 単純な1温度プラ ズマを仮定した場合、10-40keVで積分し た非熱的放射のフラックスの上限値は、$\sim 2\times 10^{-11}$ erg s$^{-1}$ cm$^{-2}$(90%信頼度)と求まった。電波放射と比較すると、磁場強度の下限値 は、$\sim 0.2\mu$G となる。この結果は、$Beppo$-SAXによって求まっている$\sim 0.04\mu$Gよりも厳しい制限を与える。それ に加え、$Beppo$-SAX PDSよりもすざく衛星のHXDは絞られた視野を持ち、電波放 射はすざく衛星のHXDの視野に収まることから 、より信頼できる結果といえる。

すざく衛星によるFornax銀河団のオフセット観測

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○小宮山 円、松下 恭子(東理大)、佐藤 浩介(金沢大)、大橋 隆哉(首都大)、山崎 典子、竹井 洋(JAXA)、中澤 知洋(東大)
今回我々は、すざく衛星によるFornax銀河団のオフセット観測から 求めた銀河団ガス中の重元素分布について報告する。 Fornax銀河団は温度 1.3--1.5~keV のICMをもつ 我々の近傍の小銀河団である。 Chandra衛星などによる先行研究から、ICMの分布が非対称であり、 cD銀河が銀河団ポテンシャルの中心に いないことがわかっている。
高温銀河団では鉄の質量と銀河光度の比は一定であるのに対し、銀河群 や小規模銀河団では小さくなることがわかっている。 すざく SWG時間におけるFornax銀河団の中心部の観測では、 北方 0.13~$r_{180}$ 以内の鉄と酸素の質量--光度比が求まり、 2--3~keV の銀河団での値の 1/10 程度であった。 銀河群や小規模銀河団のガスは高温銀河団より 広がっているので、 重元素もともに銀河団の外側へと広がっている可能性がある。
銀河団ガスの重元素の起源をIa型超新星とII型超新星に分離するためには、 両方から合成される鉄・硅素の比だけでなく、 II型超新星のみから合成される酸素・マグネシウムの量が重要となる。 銀河団中心部ではcD銀河からの寄与が大きいことを考えると、 銀河団成分を正確に評価するには 0.1~$r_{180}$ より外側の重元素分布 の決定が不可欠である。
今回は、Fornax銀河団のcD銀河 NGC 1399 より約 100--200~kpc 離れたオフセット領域3ヶ所の観測を用いて $\sim$~0.1--0.2~$r_{180}$ の領域の重元素量を求めた。 北側では 0.06--0.2~$r_{180}$ の範囲で 中心部の観測結果と矛盾が無く、 酸素・マグネシウム・硅素はほぼ一定、 鉄は少し減少していた。 南側 0.1~$r_{180}$ 周辺の領域では、 酸素・マグネシウム・硅素は北側と同程度であったが、 鉄のアバンダンスは北側よりも低くなった。 これは、 Ia型超新星爆発の寄与が北と南で違っていることを 示唆している。

「すざく」で観測されたFossil group NGC1550の重元素分布

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○佐藤浩介(金沢大)、松下恭子(東理大)、川原田円(理研)、中澤知洋(東大)、山崎典子(ISAS/JAXA)、石崎欣尚、大橋隆哉(首都大)
我々は2008年春季年会で報告したように、「すざく」を用いた銀河群・ 銀河団の観測から、銀河間ガス(ICM)に含まれる重元素量と構成銀河 の赤外光度の比が重元素拡散のよい指標となることを示唆した。 しかし銀河群・銀河団では構成銀河の数も多く、中心銀河の影響や 過去と現在の拡散の違いをみることは難しい。
今回我々が「すざく」で観測を行ったNGC~1550はFossil groupの中心に あるS0銀河である。Fossil groupとは、銀河群並の質量を持っている ものの中心にX線で明るい銀河が存在し、それ以外のメンバー銀河がほとんど 存在しない天体である。よって、中心領域($\sim0.1~r_{\rm 180}$)では 中心銀河からの重元素放出の影響を受けているものの、 それより外側の領域では、過去の重元素拡散の様子をそのまま残して いると考えられる。
{\it XMM}衛星の観測から、NGC~1550はクーリングコアを持ち、 アバンダンスは中心部で$\sim$1 solarから$\sim0.1~r_{\rm 180}$で $\sim0.3$ solarになることが報告されている(Kawaharada 2006)。 今回の「すざく」観測の結果も{\it XMM}での観測とほぼ一致し、 中心領域($r<\sim0.05~r_{\rm 180}$)は2成分の熱的放射、 それより外側では1成分の熱的放射に我々の銀河系から放射と 宇宙背景X線放射の重ね合わせで、観測されたスペクトルはよく再現できた。 また、$\sim0.2~r_{\rm 180}$までの温度と各重元素の半径分布を決定できた。 本講演では、今回の観測結果とこれまでの銀河群・ 銀河団との比較から、ICM中の重元素拡散プロセスについて議論を行う。

「すざく」による MS 1512.4+3647 銀河団プラズマの重元素組成の研究 

天文学会 2009 A
copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T03a.html
○川原田円 (理研)、北口貴雄、中澤知洋 (東大)、牧島一夫 (東大/理研)山崎典子 (ISAS)、太田直美 (ISAS/MPE)、深沢泰司 (広大)、松下恭子 (東理大)、佐藤浩介 (金沢大)、大橋隆哉 (首都大)
銀河団プラズマ(ICM)中の重元素は、銀河中の星の内部や超新星爆発 によって出来たものが、広大は銀河間空間に輸送されたものである。 重元素のうち、鉄族は主にIa型の超新星爆発 (SN-Ia) によって作られ、 $\alpha$元素は、II型超新星爆発 (SN-II) の寄与が大きいと考えられ ている。
近年の {\it XMM-Newton} 衛星と {\it Chandra} 衛星による遠方銀河団 の観測から、ICM中の鉄アバンダンスが過去から現在に向けて増加して いる兆候が見えてきた。しかし、これらの衛星では、低エネルギー側で スペクトル輝線に対する感度が劣化することと、検出器のバックグラウンド が高いために、酸素、マグネシウムなどの測定が困難であり、$\alpha$元素 の進化については全くわかっていない。そこで我々は今回、遠方銀河団の ICM中の$\alpha$元素量を世界ではじめて決定すべく、「すざく」衛星で $z=0.372$ の銀河団 MS 1512.4+3647 の観測を行なった。
X線の放射中心から2分角 (612 kpc) 以内からスペクトルは、 3.5分角 (1072 kpc) より外側をバックグラウンドとして解析 を行なったところ、$3.5 \pm 0.1$ keV の 1温度プラズマで良く再現できた。 このときの重元素アバンダンスは、$\alpha$元素が $Z_{\rm O} = 0.32^{+0.46}_{-0.32}$ solar、 $Z_{\rm Mg} = 0.41^{+0.46}_{-0.32}$ solar、 $Z_{\rm Si} = 0.71^{+0.20}_{-0.19}$ solar、 $Z_{\rm S} = 0.38^{+0.21}_{-0.20}$ solar、 鉄が $Z_{\rm Fe} = 0.52^{+0.05}_{-0.05}$ solar となった。これらを近傍の銀河団の平均値と比べると、$\alpha$元素は 誤差の範囲内で一致するが、鉄は3割ほど有意に低い。1天体のみの結果 ではあるが、このことは、ICM中における鉄と$\alpha$元素組成の進化が 異なる可能性を示唆する。