2009/03/26

すざく衛星によるAbell 2319銀河団の広帯域スペクトル解析

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T07a.html
○菅原 知佳 (山形大)、滝沢 元和 (山形大)、中澤 知洋 (東京大)、奥山 翔(東京大)
Abell 2319銀河団は、z=0.0557の近傍の衝突銀河団であり、非一様な温度分布や コールドフロントが見つかっている。可視光観測から、視線方向に 二つのグループが重なっており、その速度差はおよそ3000km/s に達すると示唆されている。さらに、銀河団全体を覆う電波ハローが検出されて おり、610MHzで1Jyであることがわかっている。この放射は、銀 河団中に広がる、エネルギーがGeV程度の電子のシンクロトロン放射であると考え られる。同じGeV電子が宇宙マイクロ波背景放射の光子を逆コンプトン散乱で 放射する硬X線を検出できれば、磁場強度の決定も可能となる。
今回、我々はすざく衛星に搭載されているX線CCD検出器(XIS)と硬X線検出器(HXD) で、Abell 2319銀河団の広帯域スペクトル解析(0.5-40keV)を行った。2温度プ ラズマモ デルでフィットしたところ、15keVを越える超高温成分の存在が示唆された。ま た、 NXBやCXBの系統誤差を考慮すると、電波放射から予想される、 photon index$\sim 1.9$の非熱的放射は検出できなかった。熱的成分として 単純な1温度プラ ズマを仮定した場合、10-40keVで積分し た非熱的放射のフラックスの上限値は、$\sim 2\times 10^{-11}$ erg s$^{-1}$ cm$^{-2}$(90%信頼度)と求まった。電波放射と比較すると、磁場強度の下限値 は、$\sim 0.2\mu$G となる。この結果は、$Beppo$-SAXによって求まっている$\sim 0.04\mu$Gよりも厳しい制限を与える。それ に加え、$Beppo$-SAX PDSよりもすざく衛星のHXDは絞られた視野を持ち、電波放 射はすざく衛星のHXDの視野に収まることから 、より信頼できる結果といえる。

すざく衛星によるFornax銀河団のオフセット観測

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T05a.html
○小宮山 円、松下 恭子(東理大)、佐藤 浩介(金沢大)、大橋 隆哉(首都大)、山崎 典子、竹井 洋(JAXA)、中澤 知洋(東大)
今回我々は、すざく衛星によるFornax銀河団のオフセット観測から 求めた銀河団ガス中の重元素分布について報告する。 Fornax銀河団は温度 1.3--1.5~keV のICMをもつ 我々の近傍の小銀河団である。 Chandra衛星などによる先行研究から、ICMの分布が非対称であり、 cD銀河が銀河団ポテンシャルの中心に いないことがわかっている。
高温銀河団では鉄の質量と銀河光度の比は一定であるのに対し、銀河群 や小規模銀河団では小さくなることがわかっている。 すざく SWG時間におけるFornax銀河団の中心部の観測では、 北方 0.13~$r_{180}$ 以内の鉄と酸素の質量--光度比が求まり、 2--3~keV の銀河団での値の 1/10 程度であった。 銀河群や小規模銀河団のガスは高温銀河団より 広がっているので、 重元素もともに銀河団の外側へと広がっている可能性がある。
銀河団ガスの重元素の起源をIa型超新星とII型超新星に分離するためには、 両方から合成される鉄・硅素の比だけでなく、 II型超新星のみから合成される酸素・マグネシウムの量が重要となる。 銀河団中心部ではcD銀河からの寄与が大きいことを考えると、 銀河団成分を正確に評価するには 0.1~$r_{180}$ より外側の重元素分布 の決定が不可欠である。
今回は、Fornax銀河団のcD銀河 NGC 1399 より約 100--200~kpc 離れたオフセット領域3ヶ所の観測を用いて $\sim$~0.1--0.2~$r_{180}$ の領域の重元素量を求めた。 北側では 0.06--0.2~$r_{180}$ の範囲で 中心部の観測結果と矛盾が無く、 酸素・マグネシウム・硅素はほぼ一定、 鉄は少し減少していた。 南側 0.1~$r_{180}$ 周辺の領域では、 酸素・マグネシウム・硅素は北側と同程度であったが、 鉄のアバンダンスは北側よりも低くなった。 これは、 Ia型超新星爆発の寄与が北と南で違っていることを 示唆している。

「すざく」で観測されたFossil group NGC1550の重元素分布

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T04a.html
○佐藤浩介(金沢大)、松下恭子(東理大)、川原田円(理研)、中澤知洋(東大)、山崎典子(ISAS/JAXA)、石崎欣尚、大橋隆哉(首都大)
我々は2008年春季年会で報告したように、「すざく」を用いた銀河群・ 銀河団の観測から、銀河間ガス(ICM)に含まれる重元素量と構成銀河 の赤外光度の比が重元素拡散のよい指標となることを示唆した。 しかし銀河群・銀河団では構成銀河の数も多く、中心銀河の影響や 過去と現在の拡散の違いをみることは難しい。
今回我々が「すざく」で観測を行ったNGC~1550はFossil groupの中心に あるS0銀河である。Fossil groupとは、銀河群並の質量を持っている ものの中心にX線で明るい銀河が存在し、それ以外のメンバー銀河がほとんど 存在しない天体である。よって、中心領域($\sim0.1~r_{\rm 180}$)では 中心銀河からの重元素放出の影響を受けているものの、 それより外側の領域では、過去の重元素拡散の様子をそのまま残して いると考えられる。
{\it XMM}衛星の観測から、NGC~1550はクーリングコアを持ち、 アバンダンスは中心部で$\sim$1 solarから$\sim0.1~r_{\rm 180}$で $\sim0.3$ solarになることが報告されている(Kawaharada 2006)。 今回の「すざく」観測の結果も{\it XMM}での観測とほぼ一致し、 中心領域($r<\sim0.05~r_{\rm 180}$)は2成分の熱的放射、 それより外側では1成分の熱的放射に我々の銀河系から放射と 宇宙背景X線放射の重ね合わせで、観測されたスペクトルはよく再現できた。 また、$\sim0.2~r_{\rm 180}$までの温度と各重元素の半径分布を決定できた。 本講演では、今回の観測結果とこれまでの銀河群・ 銀河団との比較から、ICM中の重元素拡散プロセスについて議論を行う。

「すざく」による MS 1512.4+3647 銀河団プラズマの重元素組成の研究 

天文学会 2009 A
copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2009a/html/T03a.html
○川原田円 (理研)、北口貴雄、中澤知洋 (東大)、牧島一夫 (東大/理研)山崎典子 (ISAS)、太田直美 (ISAS/MPE)、深沢泰司 (広大)、松下恭子 (東理大)、佐藤浩介 (金沢大)、大橋隆哉 (首都大)
銀河団プラズマ(ICM)中の重元素は、銀河中の星の内部や超新星爆発 によって出来たものが、広大は銀河間空間に輸送されたものである。 重元素のうち、鉄族は主にIa型の超新星爆発 (SN-Ia) によって作られ、 $\alpha$元素は、II型超新星爆発 (SN-II) の寄与が大きいと考えられ ている。
近年の {\it XMM-Newton} 衛星と {\it Chandra} 衛星による遠方銀河団 の観測から、ICM中の鉄アバンダンスが過去から現在に向けて増加して いる兆候が見えてきた。しかし、これらの衛星では、低エネルギー側で スペクトル輝線に対する感度が劣化することと、検出器のバックグラウンド が高いために、酸素、マグネシウムなどの測定が困難であり、$\alpha$元素 の進化については全くわかっていない。そこで我々は今回、遠方銀河団の ICM中の$\alpha$元素量を世界ではじめて決定すべく、「すざく」衛星で $z=0.372$ の銀河団 MS 1512.4+3647 の観測を行なった。
X線の放射中心から2分角 (612 kpc) 以内からスペクトルは、 3.5分角 (1072 kpc) より外側をバックグラウンドとして解析 を行なったところ、$3.5 \pm 0.1$ keV の 1温度プラズマで良く再現できた。 このときの重元素アバンダンスは、$\alpha$元素が $Z_{\rm O} = 0.32^{+0.46}_{-0.32}$ solar、 $Z_{\rm Mg} = 0.41^{+0.46}_{-0.32}$ solar、 $Z_{\rm Si} = 0.71^{+0.20}_{-0.19}$ solar、 $Z_{\rm S} = 0.38^{+0.21}_{-0.20}$ solar、 鉄が $Z_{\rm Fe} = 0.52^{+0.05}_{-0.05}$ solar となった。これらを近傍の銀河団の平均値と比べると、$\alpha$元素は 誤差の範囲内で一致するが、鉄は3割ほど有意に低い。1天体のみの結果 ではあるが、このことは、ICM中における鉄と$\alpha$元素組成の進化が 異なる可能性を示唆する。

2009/01/04

2008/10/01

Suzaku Observation of the Ophiuchus Galaxy Cluster: One of the Hottest Cool Core Clusters

copy from http://adsabs.harvard.edu/abs/2008PASJ...60.1133F
fujita et al. 2008

We present the analysis of a Suzaku observation of the Ophiuchus galaxy cluster. We confirmed that the cluster has a cool core. While the temperature of the intracluster medium (ICM) decreases toward the center, the metal abundance increases. Except for the core (r lesssim 50kpc), the cluster is hot (˜9-10keV) and is almost isothermal for r lesssim 1Mpc; the latter contradicts a previous study. We do not detect any variation of the redshift of the ICM in the cluster; the upper limit of the velocity difference is 3000km s-1. The iron-line ratios in X-ray spectra indicate that the ICM has reached the ionization equilibrium state. From these results, we conclude that the Ophiuchus cluster is not a major merger cluster, but one of the hottest clusters with a cool core. We obtain the upper limit of non-thermal emission from the cluster, which is consistent with both the recent claimed detection with INTEGRAL and the recent upper limits with the Swift/BAT. If the cluster has bright non-thermal emission, as suggested by the INTEGRAL measurement, it is probably not due to a recent major cluster merger.

2008/03/24

「すざく」衛星による Abell 2199 銀河団の観測II

copy from http://www.asj.or.jp/nenkai/2008a/html/T11a.html

○川原田 円 (理研)、北口 貴雄、中澤 知洋 (東大)、牧島 一夫 (東大、理研)深沢 泰司 (広島大学)
2007年秋の年会における講演(T03a)に続いて、「すざく」衛星の Abell 2199 銀河団の解析結果について講演を行う。前回は、W23系のみのPIN (32/64個)を使用して解析した結果、有意な非熱的信号は見られず、 その上限値は、Center領域で、BeppoSAX衛星の2.3倍厳しい値となる ことがわかった。今回は、フレアしたPINを含むユニット(PIN4個)を除く、 60個のPINを用いた解析を行うことで、統計を改善した。その結果得られた、 非熱的放射に対するより厳しい上限について報告する。
Abell 2199 は非熱的放射のみならず、soft excessと呼ばれる 1 keV 以下のエネルギー領域における熱的成分からの超過成分が示唆 されてきた (e.g. Kaastra et al. 2002)。 soft excess はほか にもいくつかの天体でも示唆されてきたものの、それが本当に存在するのか、 またあるとしたら熱的なのか非熱的なのか、まったくわかっていない。
「すざく」の時代になって、唯一 Sersic 159-03で soft excess の存在が確かめられている (Werner et al. 2007)。そこで今回我々は、 Abell 2199にsoft excess が存在するかどうか調べるためにXISの スペクトルを解析し、予備的な結果ながら、有意なsoft excessが 見られないことがわかった。今回はこのAbell 2199 の soft excess の上限と、これまでの衛星の結果との整合性について議論する。